FortranプログラムをPythonから活用する
Fortran
は50年以上にわたって科学技術計算を支えてきました。
その計算速度と信頼性は今でも健在ですが、現場では次のような課題に直面しています。
技術継承の問題
経験豊富な技術者が退職し、長年使われてきたプログラムが誰も触れない「ブラックボックス」になりつつあります。 新しい担当者も見つかりにくく、貴重な計算資産の維持が困難になっています。最新技術との連携不足
AI、機械学習、データ可視化など、今注目の技術分野は Python が中心です。
しかし、既存のFortranプログラムとうまく連携させる方法が限られているため、その価値を十分に活用できていません。
この技術ノートでは、これらの課題を解決する実践的な方法を、実際のコード例とともに探っていきます。
FortranとPythonを連携するための2つの方針
この問題に対して、2つの異なる方針を検討します。
方針A:すべてをPythonへ書き換える「完全移行」
既存のFortranコードをすべてPythonに移植する方針です。
目的 Fortranへの依存をなくし、開発体制を現代的なものに更新します。
メリット Fortran技術者確保の問題が解消され、豊富なPython人材で持続可能な開発体制を構築できます。
課題
- 移植の手間: すべてのFortranコードをPythonに書き直す作業が必要です。
- 性能維持: Fortranの計算速度をPythonで再現する技術的課題があります。
実現手段 NumPyによるベクトル化やJIT(
Numba
)による実行時コンパイルなどの技術を活用し、実用的な計算速度を目指します。 NumPy・SciPyなどに同等機能が既に実装されている場合は、それらの活用も選択肢となります。
方針B:互いの長所を活かす「ハイブリッド連携」
実績のあるFortranの計算ルーチンを、Pythonから呼び出せるようにし、高性能な「計算部品」としてPythonから活用するアプローチです。
目的 Fortranの計算能力を維持しつつ、Pythonを中心とした最新エコシステム(AI、機械学習、データ可視化など)と組み合わせて両方の長所を活用します。
メリット
- 開発効率: Pythonへのインターフェース部分のみ作成すればよく、コードの移植が不要。
- 信頼性: 長年動いてきた信頼できるコードをそのまま使える安心感がある。
課題
- Fortran依存: Fortranコードの最低限のメンテナンス体制は依然として必要。
- インターフェース実装技術の選択: 実装方法によって、開発の容易さと運用の安定性にトレードオフがある。
実現手段 実装が簡単な
f2py
と、堅牢で環境変化に強いctypes + bind(C)
の2つの手法を比較・評価します。
本シリーズの構成
- 第1回:対象コードの分析 — Python化における課題の特定
- 第2回:Python化を見据えたFortranコードの事前改善
- 第3回:逐次的なPythonへの移植と露呈するパフォーマンス問題 (2025/08/07公開予定)
- 第4回:NumPyとNumbaによるPythonコードの高速化 (2025/08/14公開予定)
- 第5回:f2pyによるFortranコードのラッピング (2025/08/21公開予定)
- 第6回:ctypesとbind(C)によるFortranコードのラッピング (2025/08/28公開予定)
- 第7回:総括 — あなたの状況に最適なFortran資産活用法は? (2025/09/04公開予定)