業界別最適化Example集: 薬剤配合の最適化 (ヘルスケア)
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Keyword: ヘルスケア, 製薬, 最適化, 処方, LP

ヘルスケア分野の最適化問題:薬剤配合の最適化

問題の概要

薬剤配合

ここでは、製薬業界における薬剤の組み合わせと配合比の最適化に焦点を当てます。最適化手法を用いて、治療効果を最大化しつつ副作用を最小限に抑えることを目的とし、患者の治療成果とQOLの改善を目指します。最適な配合比を見つけるための制約条件として、薬剤の用量制限や配合比の範囲、副作用の許容値などが考慮されます。

高血圧治療薬の配合最適化(具体例)

高血圧治療に用いられる3種類の薬剤A、B、Cの配合比を最適化する問題を考えます。各薬剤には治療効果と副作用があり、それぞれの用量によって変化します。

  • 治療効果は、各薬剤の用量(mg)に治療効果係数を乗じたものの合計で表されます。治療効果係数は、1mgあたりの治療効果の大きさを表す定数です。

  • 副作用は、各薬剤の用量(mg)に副作用係数を乗じたものの合計で表されます。副作用係数は、1mgあたりの副作用の大きさを表す定数です。

目標は、治療効果を最大化しつつ、副作用の合計値が許容値以下になるように、各薬剤の用量を決定することです。

以下は問題を解くために必要なパラメータ値です:

薬剤 治療効果係数 副作用係数 最小用量 (mg) 最大用量 (mg)
A 0.8 0.3 10 50
B 1.2 0.5 20 60
C 1.0 0.4 15 45

副作用の許容値は 60 とします。これは、副作用の合計値が60以下でなければならないことを意味します。

例えば、薬剤Aを30mg、薬剤Bを40mg、薬剤Cを20mg使用する場合、以下のようになります:

  • 治療効果 = 0.8 × 30 + 1.2 × 40 + 1.0 × 20 = 92
  • 副作用 = 0.3 × 30 + 0.5 × 40 + 0.4 × 20 = 37

この場合、副作用の合計値は37であり、許容値の60以下となっています。

問題は、治療効果を最大化しつつ、副作用の合計値が許容値以下となるような、各薬剤の最適な用量の組み合わせを見つけることです。この最適化問題を解くことで、高血圧患者の治療成果を改善し、副作用のリスクを低減することができます。

問題の定式化

パラメータ

パラメータ 説明
\(e_i\) 薬剤 \(i\) の治療効果係数 表参照
\(s_i\) 薬剤 \(i\) の副作用係数 表参照
\(l_i\) 薬剤 \(i\) の最小用量 (mg) 表参照
\(u_i\) 薬剤 \(i\) の最大用量 (mg) 表参照
\(S_{max}\) 副作用の許容値 60

決定変数

変数 説明 範囲
\(x_i\) 薬剤 \(i\) の用量 (mg) \(l_i \leq x_i \leq u_i\)

目的関数

目的
治療効果の最大化 \(\max \sum_{i=1}^{3} e_i x_i\)

治療効果係数と各薬剤の用量の積の総和を最大化することで、全体の治療効果を最大化します。

制約条件

制約 説明
副作用の許容値 \(\sum_{i=1}^{3} s_i x_i \leq S_{max}\) 副作用係数と各薬剤の用量の積の総和が許容値以下でなければならない
各薬剤の用量範囲 \(l_i \leq x_i \leq u_i, \quad i = 1, 2, 3\) 各薬剤の用量は最小値と最大値の範囲内でなければならない

コード例

以下に、この線形計画問題を nAG Library for Python の LP 問題専用ソルバー関数 lp_solve を用いて解くコード例を示します。

今回の問題は変数と制約条件の数が比較的少なく、小規模な線形計画問題であるため、lp_solve のような汎用的な LP ソルバーである lp_solve を選択しました。

import numpy as np
from naginterfaces.library import opt

# パラメータ設定
# 各薬剤の治療効果係数と副作用係数
e = np.array([0.8, 1.2, 1.0])  # 治療効果係数
s = np.array([0.3, 0.5, 0.4])  # 副作用係数

# 各薬剤の用量範囲 (最小用量、最大用量)
l = np.array([10, 20, 15])  # 最小用量 (mg)
u = np.array([50, 60, 45])  # 最大用量 (mg)

# 副作用の許容最大値
S_max = 60

# 目的関数の係数(治療効果を最大化するため、負の符号を用いて最小化問題に変換)
cvec = -e

# 変数と制約の上下限
bl = np.concatenate([l, np.array([-np.inf])])  # 下限値 (x_i の下限と副作用の合計の下限)
bu = np.concatenate([u, np.array([S_max])])    # 上限値 (x_i の上限と副作用の合計の上限)

# 制約係数行列(副作用制約)
a = np.array([s])

# 初期解の設定
x_init = np.array([10, 20, 15])  # 初期用量

# コミュニケーションオブジェクトの初期化 ('lp_solve'関数用)
comm = opt.nlp1_init('lp_solve')

# 線形プログラミング問題を解く
_, x, _, obj, _, _ = opt.lp_solve(bl, bu, x_init, comm, a, cvec)

# 結果の表示
print(f"最適解:薬剤Aの用量 = {x[0]:.2f} mg, 薬剤Bの用量 = {x[1]:.2f} mg, 薬剤Cの用量 = {x[2]:.2f} mg")
print(f"最大治療効果:{-obj:.2f}")

# 副作用の合計値を計算
total_side_effects = np.dot(s, x)
print(f"副作用値:{total_side_effects:.2f}")

結果例

上記のコードを実行すると、以下のような結果が得られます:

最適解:薬剤Aの用量 = 50.00 mg, 薬剤Bの用量 = 54.00 mg, 薬剤Cの用量 = 45.00 mg
最大治療効果:149.80
副作用値:60.00

この結果から、最適な薬剤の配合比は薬剤Aを50mg、薬剤Bを54mg、薬剤Cを45mg使用することであり、このときの治療効果は149.80、副作用値は許容値の60ちょうどになることがわかります。

この最適解を用いることで、高血圧患者に対して効果的な治療を提供しつつ、副作用のリスクを管理することができます。

まとめ

ここでは、製薬業界における薬剤配合の最適化問題を取り上げ、線形計画法を用いて解決する方法を提示しました。高血圧治療薬の配合最適化を具体例として、治療効果を最大化しつつ副作用を許容値以下に抑えるための定式化と解法を示しました。 この手法は、他の疾患の治療薬の配合最適化にも応用可能であり、モデルの制約条件を調整することで、複数の治療目標を同時に考慮した最適化問題への応用も可能です。


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